――「なんとなく足の付け根が痛い」その違和感、見過ごさないで
■ 変形性股関節症とは?
変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減ることで関節が変形し、痛みや動きの制限が出る病気です。
股関節は、体の中で最も大きな関節で、骨盤と太ももの骨(大腿骨)の間にあり、体重を支えながら、歩く・しゃがむ・座るなど、様々な動作を可能にしています。
しかし、軟骨がすり減ると、骨と骨が直接こすれ合い、炎症や痛みが生じ、動きが悪くなっていきます。さらに進行すると、骨の変形が起こり、歩行障害や生活の質の低下につながる重大な疾患となります。
■ なぜ変形するの?――その原因とメカニズム
変形性股関節症の原因には、大きく分けて「一次性」と「二次性」があります。
【一次性】原因がはっきりしないもの
加齢、使いすぎ、体重増加などが関与すると考えられています。欧米ではこのタイプが主流です。
【二次性】原因がはっきりしているもの
日本では、約80%以上がこちらに当てはまるとされ、特に「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」という、股関節のかぶりが浅い先天的な構造異常が多く見られます。
つまり、「もともと股関節の受け皿が浅く、骨が安定しづらい人が、年齢とともに軟骨がすり減り、痛みが出る」というケースが非常に多いのです。
■ 症状の進行と特徴
変形性股関節症の進行は、一般的に以下の3つの段階に分けられます。
【初期】
- 長く歩いた後に足の付け根がだるくなる
- 動き始めに違和感がある
- 靴下をはく、足の爪を切る姿勢が取りにくくなる
【進行期】
- あぐらをかく、しゃがむ動作が困難になる
- 階段の上り下りで強い痛みを感じる
- 歩行中に足を引きずるようになる(跛行:はこう)
【末期】
- 関節の変形が進み、常に痛みを感じる
- 足の長さに差が出てきて、歩行が困難になる
- 日常生活の多くの動作に介助が必要となる場合も
変形が進む前に、「ちょっとおかしいな」という感覚に気づき、早期に対処することがとても大切です。
■ セルフチェック|こんな症状があれば要注意
以下の項目に複数当てはまる方は、変形性股関節症の可能性があります。
- 足の付け根が痛い・だるいと感じることがある
- あぐらがかきづらくなった
- 足を開く動作に制限を感じる
- 片足に体重をかけると痛む
- 歩くときに体が左右に揺れる
- 靴下や靴をはくときに足が上がらない
自覚症状が軽くても、「動かしづらさ」や「可動域の制限」も立派なサインです。
■ なぜよくならないのか?──進行する理由と誤った対応
多くの方が、以下のような要因によって、症状を悪化させてしまっています。
- 痛みを避けるあまり動かさず、筋力が低下する
- 足をかばって歩くため、姿勢が崩れ腰や膝にも痛みが出る
- 自己流のストレッチで痛みが悪化
- 体重が増えて関節への負担が増す
- 靴が合っていない(ヒール・クッション性のない靴)
また、「軟骨はすり減ったら元に戻らない」とあきらめてしまう人も多いですが、痛みを軽減し、生活の質を保つための方法はたくさんあります。
■ やってはいけないこと
変形性股関節症の方にとって、避けたい動作や習慣があります。
- 床に直接座る・しゃがむ(股関節に大きな負担)
- あぐらや開脚ストレッチ(関節を広げすぎる)
- 片足に体重をかける癖(バランスが崩れる)
- 長時間の立ち仕事・歩きすぎ
- ヒールやすり減った靴での歩行
無理に関節を動かすのではなく、「痛みの出ない範囲で動かす」「姿勢や重心を整える」ことが重要です。
■ 変形性股関節症のセルフケア
セルフケアでは、関節への負担を減らすために周囲の筋肉をやさしく動かし、支える力を高めることを目的とします。
① 膝倒し体操(股関節をほぐす)
- 仰向けで膝を立てて寝る
- 両膝をそろえたまま左右にパタンと倒す
- 痛みのない範囲で10回
② 中殿筋トレーニング(お尻の横)
- 横向きで寝て、上の脚をまっすぐ伸ばしてゆっくり持ち上げる
- 10〜15回(反対側も)
中殿筋は股関節の横ブレを防ぎ、歩き方を安定させる重要な筋肉です。
③ ドローイン(体幹トレーニング)
- 仰向けで膝を立て、お腹に手を置く
- 鼻から息を吸い、お腹をふくらませる
- 口から吐きながらお腹をへこませる
→10回×2セット
体幹を安定させることで、股関節への負担も軽減されます。
■ 進行を防ぐ・再発しないために
変形性股関節症の管理には「姿勢・生活習慣・運動習慣」の3つが重要です。
姿勢:
- 骨盤を立てて座る
- 背もたれに寄りかからず、自分の筋力で支える意識
- 足を組まないようにする
生活習慣:
- 体重管理(1kgの増加で、関節には3〜5kgの負荷がかかる)
- 足にフィットする靴を選ぶ(ヒールや薄底はNG)
- 長時間の歩行を避ける(こまめな休憩を)
運動習慣:
- 水中歩行やプールでの運動(浮力で関節にやさしい)
- ヨガやストレッチは痛みのない範囲で
- 週3〜4回の軽い筋トレで股関節を守る筋力を維持
■ よくある質問(Q&A)
- 変形性股関節症は手術しないと治らない?
A. 軟骨の変形自体は戻りませんが、筋力強化と姿勢改善で痛みを軽減することは十分可能です。手術は日常生活が著しく困難な重症例に限られます。 - 股関節が痛くても歩いたほうがいいですか?
A. 痛みが強いときは無理をせず、痛みの出ない範囲での軽い運動(ストレッチやプールなど)がおすすめです。 - 整骨院で改善できますか?
A. 骨盤や姿勢の調整、筋肉バランスの改善により、股関節の負担を軽減し、動きやすさを回復するサポートができます。
■ 改善のポイントまとめ
- 変形性股関節症は、軟骨の摩耗と骨の変形により痛みが出る
- 多くは臼蓋形成不全が背景にある
- 初期段階でのケアと習慣改善で進行を防ぐことが可能
- 痛みを我慢せず、体幹とお尻まわりの筋肉を整える
- 毎日少しずつ、負担のない範囲で動かし続けることがカギ